遠く九条の背中を見送って、
その後ずいぶんと長い間その場にへたりこんでいた
「助けて」と、のどの奥まで出かかっていた。 九条は何も関係がないのに。
<あらすじ>
ある夏の日、水泳部のホープの九条は上級生の水村に一目惚れをする。近づいたつもりでも水村は水のようにとらえどころがなくもどかしさが募るばかり。一方、水村は、実家の映画館が立ち退きを迫れる中、誰よりも早く泳ぐ九条の姿に希望を見出していた——。
胸の痛みが心地いい。極上のセンシティブ・ラブ、ついに単行本化。
お勧めして頂いた作品。
すっごいドラマティックで、雰囲気があって
映画を丸々一本見たような満足感のある1冊でした。
半袖、汗、セミ、プール、ヒマワリなど
むせ返るような夏の雰囲気が伝わってくるような描写も
爽やかで印象深いです。
きっと真夏に読めば、臨場感がさらにアップする事でしょうw
立ち退きを迫られているポルノ映画館の息子・水村は
数々の嫌がらせ・暴力を受ける辛い毎日を送っていましたが
水泳部のホープである後輩の九条の活躍を見て
なんとなく一筋の光を見出すようになります。
九条もまた、1度会っただけの水村に一目惚れし
二人は自然に惹かれていきます。
まだ高校生という非力さに、もがきながらも
ゆっくりと恋を育てていく二人はとても強く、切なく
二人が抱き合う姿を見る度に胸がキュンとなります。
(ホントに気持ち良さそうな抱き合いっぷりなんだもんよー)
作品中、特に印象深かったのは
おばあちゃんの葬式で涙ひとつ見せなかった水村が
その夜、黒ネコに九条を重ね合わせて一人涙したシーンと
水村と九条のキスシーンを偶然目撃してしまって
昔からの親友を横取りされた気分になり
「恋のない国に行きたい」と切実に思う部長の姿です。
(でもそういう国は無いだろう、きっと。)
思春期が抱える喜び、苛立ち、悲しみを
すごく上手に表現する作家さんだなーと思いました。
「世の中、上手くいかないコトばっかりだ。」と
大泣きし、しゃくりあげながら言った部長の言葉が
心にズシーンと落ちてきました。
高校生くらいの時って、いっつもそう思いながら生きていた気がします。
今もあんまり変わらないけどw
あと、Hシーンに突入したとたん朝チュンで終わってしまって
ええぇぇぇぇっ!?ってなりましたが
この作品に過度なエロがあると浮くような気がするんで
それはそれで・・・いいか・・・うん・・・(とっても残念だが)
そこに至るまでの、抱擁やキスシーンが
妙にエロくて可愛かったのでそれで我慢する事にしますw
暴力とか、人の死とか、けっこう痛い描写も多かったですが
最後は超ハッピーエンドで終わってくれて嬉しかったです。
描き下ろしの幸せそうな二人を見ていると
こっちまで幸せな気分になる。
ただ、ひとつ気になったのは、
すべての擬音が(パリーンとかバシャーンとかギシギシとか)
みんな活字にしてあるのは何故だ・・・。
やっぱり手描きじゃないと何か変な違和感がありました。
そこだけがちょっと残念w
この作品は、10年以上前の同人誌がベースになっているそうですが
その頃から続きが出るのをずっと待ち続けていた方もいるようで。
この物語の厚み、奥行き、みたいな物は
この10年の間に練られたものだったのかと思うと
妙に納得してしまったのでした・・・。
エロ
★
萌えた
★★★★
切ない
★★★★★
笑える
★★
買って良かった
★★★★★